ネタバレあり漫画【僕はどこから】のストーリーやラストの意味を考察

サスペンス・ミステリー
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市川マサさんの作品「僕はどこから」のストーリーをネタバレ有りで考察を交えつつまとめました。あらすじ、事件のあらまし、登場人物それぞれの狙い、そしてラスト「言いたいことがあるなら書け」の意味などです。

【僕はどこから】ストーリー&考察

主な登場人物

竹内薫……小説家志望のフリーター。母親は認知症を患っており、介護の傍らコンビニでアルバイトをしつつ小説を書いている。他人の文章を書き起こすことで、その人物の気持ちがわかるという特殊な才能を持っている。

藤原智美……講談会のエリートヤクザ。20歳でありながら下部組織の組長。薫とは妹を救って貰ったことをきっかけに親友となる。

井上玲……政治家を父に持つ。母親から執拗なプレッシャーを受けているが合格判定が出ない。

山田龍一……情報屋。ヤクザだけでなく警察などにもパイプがあり、裏で暗躍している。

ネタバレ ストーリー

まずは大まかなストーリーについてまとめました。考察はその後します。

替え玉受験

竹内薫は母親の看護費用などのお金に困っていました。

そんな時に、親友でエリートヤクザの藤原智美から政治家の息子・井上玲の代わりに大学入試の小論文を受けて合格させるという、替え玉受験の誘いを受けます。

竹内薫はこの提案を受けます。

竹内薫は他人の文章を書き写すことによってその人物の思考をトレースしなりきることができるので、小論文の替え玉受験には最適な人物です。

作戦としては、二人が一緒に入試を受け、試験内容の三科目のうち午前中に行われる英語と地理に関しては井上玲本人が受験。最後の小論文だけ入れ替わり受けるというものです。

見事に成功したように思われましたが……。

井上玲の母親殺害

井上玲は理系に関しては天才的ながらもアスペルガー症候群のような対人関係のコミュニケーションが下手で母親とも不和が生じていました。

そして、受験の当日。ついに母親を殺害してしまいます。

他人の気持ちを読み取ることができる竹内薫は、小論文の試験中に殺意を感じ取り、井上家に駆けつけるもののとき既に遅し。そこには母親の遺体が。

運の悪いことに通報によって駆けつけていた警察に遭遇し、その場で逮捕されてしまいます。

釈放

事前打ち合わせで訪れていた時に凶器の花瓶に触っていたこともあり、竹内薫は逮捕されてしまいます。

講談会の会長は竹内薫を切り捨てるように指示を出しますが、藤原は親友を見捨てられずに警察署へと駆けつけます。

藤原は警察に『竹内薫は自分と一緒にいた』というアリバイを偽証して提供。

もちろん警察は藤原のことを信じない。口裏合わせをしていると察知するものの、二人の証言が160個で一致していたことから釈放されます。

山田の暗躍

藤原の情報屋として動いていた山田でしたが、実は裏で暗躍をしていました。

井上玲が母親を殺害した現場にいち早く駆けつけた山田は井上玲を確保し、自分の拠点へと隠します。

そして、講談会が井上玲替え玉受験の報酬として井上玲の父親から受け取るはずであったIR法案の利権を横取りしてみせました。

更には井上玲の罪を竹内薫と藤原に擦り付けるために、暗躍をします。

竹内薫の逆襲

山田によって操られていたように見えた竹内薫でしたが、藤原の部下と接触することができて、逆に山田を嵌めることに成功します。

ですが、山田は竹内薫を人質にとって警察の制止を振り切って逃走。本拠地である宝土清掃へ向かいます。

宝土清掃とは山田がつくった表向きは全うながらも裏では犯罪を行っている会社です。

しかし、その拠点を事前に知っていた藤原によってほぼ壊滅。

山田がやってきた時には弟分である駿だけになっていました。

山田は竹内薫を人質にすることで情勢を逆転しようと試みますが、藤原の舎弟が駆けつけたこともあり、確保されます。

井上玲確保

井上玲確保はただ匿われていただけでなく、自爆の用意を整えていました。

しかし、藤原に説得される形で自爆をやめ、無事に確保されました。

結末

井上玲の母親が殺された事件は、山田に罪を擦り付けることに。

井上玲が母親を殺した事実とそれをもみ消したことを政治家の父親に報告し、講談会は大きな利益を得ることに。藤原は結果的に成功。

竹内薫は井上玲と出会ったことで自分自身の小説を書くことに成功します。すると特殊な能力は消え去っていました。

同時に、藤原も竹内薫の前から姿を消します。

10年後

竹内薫はデビューした小説で太宰治の再来と言われるものの、それ以降の小説を書くことができずに芸能人のインタビューライターとして働いていました。

井上玲の母親のお墓にお参りに行ったとき、藤原と井上玲と再会します。

竹内薫は何故自分の前から姿を消したのか問いますが、その口を塞いだ藤原は「言いたいことがあるなら書け!」と言い残し、その場を去っていくのでした。



考察 解説

ここからは作中の気になった点やわかりにくいであろう点を管理人が独自にまとめました。

受験票を偽造した理由

替え玉受験をする際に、藤原は受験票を偽造しました。その理由を解説します。

受験票は2つあります。竹内薫は中卒なので受験資格がなく、藤原が自分の学歴を使って願書を出しました。

①井上玲の受験票⇒顔写真は井上玲

②藤原の受験票⇒顔写真は竹内薫にも井上玲にも見える加工写真に変更

更に藤原はもうひとつの受験票を偽造します。

③偽造の受験票⇒受験番号は井上玲で顔写真は竹内薫にも井上玲にも見える加工写真

受験中には受験票を机の上に置かなくていけません。替え玉を防ぐためです。

入れ替わったとに、①の受験票を置けば顔が違うのでバレてしまいます。②の受験票を置けば受験番号が違うのでバレてしまいます。

そのため、③の受験票を偽造して、入れ替わっているときには①の受験票をしまい③の受験票を机の上に置いておくということです。

釈放のアリバイ偽証

竹内薫が捕まったときの流れを解説します。

まず竹内薫は自分の名前と住所を警察に提出します。これは自分の存在を明らかにすることで警察に藤原をマークさせて、藤原に自分の境遇を伝えるという意味がありました。

竹内薫の意図を汲み取った藤原は警察署へと乗り込み、竹内薫は自分と一緒に読書会をしていたアリバイを証言し始めます。

証言を信用しなかった警察は、藤原が「竹内の単独犯だ」と証言したと嘘を付き、自白を求めてきました。

しかし、その調書を書き写すことによって警察が嘘をついていることを読み取った竹内薫はお互いにとってもっとも印象に残っている出来事を語り始めます。

親友同士がもっとも共通して印象に残っている過去の出来事を話していたので、お互いの証言が一致したというわけです。

まとめると

逮捕される藤原に助けを求める警察が嘘で自白を求める藤原が来たことを察知する藤原との最も印象的な思い出を話す

ということです。

山田の狙い・思惑

井上玲が母親を殺害する現場に遭遇した情報屋である山田が思い描いたストーリーを解説します。

井上玲を匿ったことで講談会が欲していたIR法案の利権を井上・父から横取りしたことに成功。ただし、藤原が井上玲と接触してしまうと自白させられてしまう。

そこで、竹内薫を利用して藤原を逮捕させる手を思いつきます。

竹内薫に拳銃を渡し福岡県の小倉駅で藤原と合流して拳銃を手渡すように指示をだす。九州には講談会の影響が及ばないため助っ人を頼むことができず、武器が必要だという理由があります。

警察には竹内薫が動くという情報を流し、尾行させます。

小倉で合流したら宝土清掃に匿っていた井上玲と対面させ、その場を警察に取り押さえさせる。藤原は竹内薫が届けた拳銃を持っているので警察は藤原を逮捕できる。

竹内薫が井上・母殺しの実行犯であり、藤原は井上玲を殺して口封じをしようとした隠蔽工作犯として逮捕される、というのが山田の目論見でした。

井上玲が母親を殺した動機

動機は竹内薫が井上玲の思考をトレースし「僕を否定しないで」という本心を読み取ってしまったことが原因です。

井上玲はどんなに罵倒されようとも母親を愛していました。

「僕を否定しないで」という本心は「母親に否定されている」という事実の裏返しでもあります。

そして大きなきっかけは、替え玉受験。

母親の期待に応えようしていた井上玲にとって、母親が替え玉受験を決めたということは、自分の頑張りが否定されただけでなく「理想の息子になろうとする考えすら否定された」と感じてしまったんですね。

藤原が消えた理由と「言いたいことがあるなら書け」の意味

竹内薫が自分自身の小説を書きそれを読んだ藤原は、竹内薫の前から姿を消します。

そして10年後に再会してもろくに話はせず、「言いたいことがあるなら書け!」と言い放ち去っていきます。

藤原は竹内薫の小説を読んで、この作品は絶対に世に出ると確信したのではないでしょうか。そうなると、半社会組織の一員である自分と居ることは竹内薫にとって害にしかならない。だからこそ姿を消したのだと思います。

10年後の再会は作中では偶然のような形になっていましたが、あえて姿を現したように感じました。

「言いたいことがあるなら書け」とは「小説を書け。会えなくてもいつまでもお前の親友であり、小説で繋がることができる」そう伝えたかったのではないでしょうか。

まとめ考察

主人公の特殊能力やそれを使った駆け引きに目が行きがちですが、「僕はどこから」の全編を通して伝わってくるのは、罪を犯しすまでにどのような経緯があったのかということです。

井上玲は存在を否定されたことで殺人の衝動に走ってしまいました。その道は誰が決めたのか、誰がそこまで追い込んだのか。

作中では情報屋の山田は自分のことを緻密な計算によって犯罪へと追いやるラプラスの悪魔だと表現しています。

井上玲も「小さな選択を積み重ねた先に一択しか残されていなかったとしても、僕が選んだことになるのだろうか。僕の罪は僕の罪なのだろうか」と語っています。

「僕はどこから」は罪を犯すまでのプロセスが繊細に描かれた作品だと感じました。

最終巻の巻末で作者は「悲しみの子どもたち 罪と病を背負って」という書籍をオススメしています。

気になる方は読んでみてはいかがでしょうか。

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